プライベートの支出は経費計上可能?
現在、コロナ騒動真っただ中。
医師のみなさんは、例年以上に多忙な日々を送っておられると思います。
今回のような騒動がなければ夏のこの時期、旅行など外出することも多いのではないでしょうか?
旅行などで発生する飛行機代、ホテル代など。
これらの費用について、経費に計上して節税に役立てたいと思ったりしたことはありませんか?
条件や手続きなどは必要になりますが、マッチすれば私的な支出も経費として計上できる場合があるのです。
給与所得者の特定支出控除を利用する
個人事業主は、仕事で利用した交通費や専門書の購入費用など経費として計上することが可能です。
経費は収入金額から控除することができるんです。
いいですよね。
羨ましいですよね。仕事で使った費用が大きければ、そのぶん税金が安くなるのですから。
対して、勤務医の先生は自己の負担で支払った交通費や専門書の購入費用など、どのように処理されていますか?
特に経費で計上とかはできません。
自己負担ですよね。
これって不公平だと思いませんか?
そこで、昔話になりますが、大島教授という方が不公平だとして国と争ったんですね。
その結果できた制度が「特定支出控除」です。
特定支出控除の金額
特定支出控除が適用されるためには「金額」「限定項目」「手続き」の3つのハードルをクリアしなければなりません。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
1,800,000円以下 | 収入金額×40%-100,000円550,000円に満たない場合には550,000円 |
1,800,000円超 3,600,000円以下 | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,000円超 6,600,000円以下 | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,000円超 8,500,000円以下 | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,000円超 | 1,950,000円(上限) |
上記が給与所得控除額の計算表となります。
たとえば給与等の収入金額が600万円のケースを考えてみましょう。
給与所得控除の金額は164万円ですので、半額の82万円以上の支出があれば、それを超える金額を特定支出控除として所得から引くことができるのです。
特定支出控除の限定項目
経費として認められるのは「通勤費」「転居費」「研修費」「資格取得費」「帰宅旅費」「勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費)」限定です。
具体的には下記になります。
通勤費・・・一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出 転居費・・・転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出 研修費・・・職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出 資格取得費・・・職務に直接必要な資格を取得するための支出 帰宅旅費・・・単身赴任などの場合で、その者の勤務地または居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出 勤務必要経費・・・書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用。制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用。交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出。
勤務医が特定支出控除を受けるハードルは高い
期待させておいて申し訳ないのですが、給与所得者の特定支出控除の制度は金銭的な制限が厳しく、項目も限定されています。
さらに手続きも非常に煩雑なため、実は利用している納税者は非常に少ない制度です。
特定支出控除は黙っていても受けることができません。
確定申告の際に手続きが必要です。
確定申告書に領収書と「給与等の支払者の証明書」を添付するのですが、この「給与等の支払者の証明書」を作成するために、会社からの全面的なバックアップが必要となってきます。
勤務医の場合は、勤務先の協力が必要です。
そのため、勤務医のみなさんが節税を考える場合におすすめの方法が「法人設立」です。
勤務医も法人設立により節税が可能
医師に限らず、誰でも法人の設立は可能です。
これまでお話したように、勤務医として給与を貰う立場では節税方法は限定されてしまいます。
そこで、法人設立が選択肢となるのです。
法人を設立し、法人に収入を発生させ、その収入の経費として計上する方法があります。
勤務医が法人を設立するメリット
特定支出控除と比較して、手続きの煩雑さに加え下記のようなメリットがあります。
金額の範囲が無い
「給与所得控除の半額を超える金額」といった限定はなく1円から経費に計上することができます。
項目の限定が無い
法人の経費は法人税法では損金といいますが、その法人税法では別段の定めがあるものを除き、原価や費用、その他の取引にかかる支払いと言っています。
かなり範囲は広いです。
ただし、別段の定めはありますのでしっかりと税理士に確認しなくてはいけませんね。
その他節税に利用できる
お住まいの住宅を社宅契約にすることにより、家賃の一部を経費化する。
法人名義で保険に入ることにより、所得税の生命保険料控除よりも効果的な節税が可能。
などなど。
法人設立の注意点
法人設立にはデメリットやリスクもあります。それらを把握して、最善の方法を検討する必要があります。
法人設立や運転にコストがかかる
株式会社を設立する際の費用として約24万円、合同会社の場合でも約10万円最低でも必要です。
さらに司法書士の先生などに手続きをお願いすれば、手数料も発生してきます。
また、年に一回の確定申告や帳簿作成を税理士に依頼すると、会社規模にもよりますが年間60万円以上は税理士報酬が発生します。
税務調査が発生しやすくなる
個人の場合、特に給与の収入しかなければほとんど税務調査が発生する可能性はありません。
しかし法人の場合、いろいろと前提はありますが、明らかに税務調査が発生しやすくなります。
税務調査の結果によっては節税分が消し飛ぶような追徴課税等が発生する場合も。
ルールを守った節税をおこなっていれば税務調査も怖くありませんが、リスクとして知っておきたいポイントです。
このように、法人設立にはメリットデメリットがありますので慎重に判断していきたいですよね。
また、法人を設立するだけで簡単にメリットが享受できるものでもなく、法人として何かビジネスをおこなっている必要があります。
したがって、現状個人で何か給与以外の収入を受けていて、これを法人化したり、改めて法人で新しくビジネスをする必要があります。
例えば執筆活動やコンサル活動など。
今後のキャリアプランの一環としても考えてみてはいかがでしょうか?
まとめ
勤務医の先生が領収書を経費にするのは骨が折れる作業です。
勤務先の全面協力が得られるのであれば、特定支出控除を。得られないのであれば法人設立を検討されてはいかがでしょうか?
法人設立を検討される際には、
①給与以外の法人の収入とできる収入があるか
②コストがそれなりにかかるがメリットはそれを上回るか
③面倒臭いのに耐えられるか
この3つがポイントになるかと思います。
②についてはご自身で判断するのは難しいこともあると思いますので、税理士など専門家にしっかりご相談されるのをおすすめします。