医師、とくに女医は、キャリアの重要な時期と、結婚・出産などのライフイベントが重なってしまうため、悩みながら働く年齢である。
美容外科医・奥村智子医師もそんな葛藤のなかでキャリアを築いてきた一人だ。
研修医修了後、美容外科の道へ。
湘南美容外科クリニックでは、女性ではじめて病院長に就任。40歳で第三子を妊娠中にクリニックを開業。
奥村智子さんのキャリアは美容外科医としても女性としても理想的に映る。だが、日々の間には悩みや葛藤もあった。
「父は小児科医でしたが、私は学生の頃から夢は美容外科医。美容外科医になるため医学部へ入ったと言っても過言ではありません。当時は、今ほど美容外科医がメディアに取り上げられることもなく、専門医を取らずに美容外科の道に進むことは珍しかったです」
臨床研修後の進路として希望する美容外科か、医局に入るか迷う中で、美容外科を選んだ理由の1つは「ライフ」の部分だ。
医師に限らず、女性はキャリアとライフの重要な時期が重なってしまう。仕事か家庭か、どちらに重きを置くかの選択を迫られる。
「研修医を2年やって、専門医を取ると最短でも5年はかかります。専門医を取ってから美容外科の道に進むとなると、仕事かプライベートか選ばざるを得ない状況になる可能性が高くなります」
医療に携わるなかでは、自身の希望よりも患者を優先しなくてはいけない場面も多い。自分の望む生き方をすることで、周りに負担をかけることも気がかりだった。
30歳で結婚、32歳で子供を産むという目標を持っていた奥村さんにとって、どちらも実現するには「医師として順当なルート」ではなく、自分の希望を貫く選択が妥当だった。
「美容外科医の仕事は、想像していた通りでとても楽しいものでした。美容外科に進みたいことを公言していたので、悪い話や怖い話を吹き込まれるんですよね。訴訟が多いとか、大変な患者さんが多いとか。でも、実際に働きはじめたらそんな酷い状況ではなくて」
同じ医師でも、美容医療業界で働くことへの感覚はさまざまだ。
現場を知らない医師から、イメージで語られる場面も多い。
「リスクという面では保険診療と変わらないと思います。むしろ美容外科はスタッフのサポートも手厚いので、患者さんに集中することができます。患者さんの反応がストレートに返ってきますし、成果が目に見えることが喜びです」