整形外科医にとどまらないキャリアを模索中
日本に帰国してからもいくつか進路があった。公衆衛生分野で著名な海外の大学で学位を取り、国際機関へ進むことも検討したが、日本から出て帰国してみると、日本より途上国の人のほうが幸せに見えたという。
「日本国内でなにかしたいと思って、診療に限らず人のつながりでいろいろなお手伝いをしました。医療ベンチャーでは再生医療事業の立ち上げに携わったり、ビジネスにも手を出しました。いくつかクリニックの立て直しも手伝ったりしました。もともと経営やマーケティングにも興味があったので」
2019年に、銀座にある『ウィクリニック』の院長に就任。週3日勤務し、整形外科医としても働く。美容医療に関わったのは、友人の美容クリニックでアルバイトをしたのがきっかけだった。
「美容医療は生命の危機を救う医療とは異なりますが、患者さんの悩みを解決するために医療サービスを提供することは同じです。よく誤解されますが、患者さんは全員がキレイになるために来ているわけではないです。たとえば、毎日のシェービングが面倒で脱毛するとか、化粧をラクにするためにシミを取りたいとか。美容軸ではなく時間短縮を目的とされる方も多いです」
相手の困り事やニーズを聞き出し最適な治療を提供することが美容医療に携わる医師に求められる。女性医師のように同じ女性として共感することはできないが、男性目線でどう感じるかを参考にしたい女性患者は少なくない。ロジカルな説明に納得を感じる人もいるため、論理的な面が強い医師でも活躍できる。
「ただし、正しい医療を提供するクリニックが儲かるわけではない面もあります。美容医療に限らず、医学的な水準が高い治療だから患者さんは満足するわけではありません。丁寧に話を聞いてくれる、心地いい空間であるなど、感覚的な部分から来る満足度はおろそかにできません。医学的には間違っているけど、共感してくれる先生が人気だったり。必ずしも結果だけを求めるわけではないです。美容医療に進むかどうかに限らず、医師は好奇心と想像力を持ち、行動に移すことが重要だと思います」